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2011年3月27日日曜日

2

それでもわたしはめをひらく



 私はルートヴィッヒさんに状況を簡潔に説明した。毎日のことだが、だからこそとても緊張する瞬間でもある。

 彼が警察官であったこと。
 ある事件で子どもを凶弾から庇い、頭部に損傷を負ったこと。
 それによって現在までの記憶を失ったこと。
 そして長期記憶が出来ないという障害が残ったこと。
 孤児であり、育ての親も亡くなって身寄りのない彼をある人が引き取ったこと。

 彼は落ち着いて聞いてるようだった。泣くでもなく取り乱しもしないその様子に最初は不安になったものだ。ひょっとしたらこの人は自分に起こったことを受け入れられずにいるのではないか、厳しい現実から逃げてしまっているのではないか。
 でもすぐにそうじゃないと分かった。
 ルートヴィッヒさんは優しい人だ。そして私は子ども…彼にとっては守る対象で。そう、彼は自分が大変な状態なのに私を心配させまいとしているのだ。自分が動揺した様子をみせれば私に不安を与えるからと、彼はただ耐えている。
 私ならそんなことは出来ない。きっと、みっともなく取り乱してしまうだろう。
 話し終わった私は彼の側でじっと待った。しばらく考えていたルートヴィッヒさんは蒼白な顔で、それでもなんとか笑顔を浮かべながら私をまっすぐ見る。
 「君の名前を教えてくれないかな。どうも、忘れてしまったみたいだから。」

 ルートヴィッヒさんは優しい人だ。
 その優しさが哀しくて、どうしようもなく愛おしい。

 
 自己紹介をすませると、私は彼の為に飲み物をとりにいった。
 これも事故の後遺症なのだろうか。彼の眠る時間は長く、目覚めてからしばらくは身体活動が鈍い。決して寝ぼけている訳ではなく頭は働いているのだがなかなか動き出せないのだ。しかしその症状も私が来たばかりの頃に比べれば大分改善されたように思う。はじめは午前いっぱいをベットの上で過ごしたほどなのだが、今は暖かいものを飲んで小一時間もすれば動き出せる。

 「コーヒーでよかったですか?」
 「あ、…あぁすまないな。ありがとう。」
 私からコーヒーを受け取ると、ルートヴィッヒさんは少し迷ってから彼にしては珍しくぼそぼそと不明瞭に言葉を発した。
 「なぁ、キク。間違ってたらすまないんだが、その、ここに誰か他にもいる、だろう?俺達を引き取ってくれた人が。」
 「えぇ。」
 「…このベットで一緒に寝ていた?」
 「……!?」

 正直、とても驚いた。

 もちろん彼が同居人を気にするのは初めてではない。記憶をなくし続ける人間と子どもが2人きりで生きていける訳はないし、私の自己紹介からも第三者の存在は容易に想像できる。しかしこういった質問は初めてだった。つまり、得た情報からではなく、自分の感覚から『誰か』を考えたのは。
 顔に出てしまっていた驚きを、変な質問に対するそれとでも勘違いしたのだろうか。私を見たルートヴィッヒさんは慌てて忘れてくれ、というと目を逸らした。俯いてしまう。
 「いえ、間違っていません!ギルベルトさんはいつも貴方と一緒に寝ますよ!仕事があるので貴方が起きる前に出掛けてしまいますが…!」
 「…”ギルベルト”?」
 「あ、」
 明らかな男性名。勢いでいってしまったがいつもなら一番慎重に話す話題だ。
 なぜなら彼はルートヴィッヒさんのパートナー…恋人だから。誰よりもルートヴィッヒさんを愛し、守り、自分のことよりも大事にしている、優しい人。男性同士なんてこと気にならないくらい素晴らしい2人だ。

 でもルートヴィッヒさんはギルベルトさんのことを覚えていない。記憶がない。残酷な忘却は、彼のことすら記憶から消し去ってしまった。

 何も覚えていない彼は同性の恋人をどう思うだろうか。聡明なルートヴィッヒさんが先入観で捉える事はないとは思うが、それでも私の口からではなくまずは自分の目で会って欲しかった。
 後悔で黙ってしまった私の手をルートヴィッヒさんが優しく取る。

 「教えてくれ、キク。ギルベルトとは誰の事なんだ。」
 嫌悪の色がないその目に励まされ、私は口を開いた。


†  †  †

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