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2011年1月16日日曜日

ハロウィンパロ 第3幕

第3幕

陽のあたる場所 

 鳥のさえずり、やさしく降り注ぐ日差し。まるで絵画にでもしたくなるようなうららかな午後の昼下がりだ。
 2人は屋敷の庭にあるテラスにいた。全面を硝子で覆われたそこは小さな温室のようになっており、煉瓦が敷き詰められた床には大小様々な大きさの植物が置かれている。ほんの少し前まで伸び放題だったそれらは、優秀な人狼の手によって美しく整えられ調和をもってテラスを飾っていた。窓際に小ぶりな机と椅子が2脚置かれていて、彼らはそこで午後のお茶を楽しんでいた。

 「へぇ、お前ローデのとこの息子だったのか。」
 「はい。彼の元で父について仕事を学ばせていただきました。」
 「ははは、そりゃ優秀なわけだ。」
 「そのようなこと…とんでもございません。」
 「んなことねぇだろう、ここだって」
 ギルベルトは言葉を切ると、少し背中を仰け反るようにして温室の中を見渡した。
 重みを受けた椅子がきしり、と音をたてる。
 「すげぇ綺麗になったしな。あんなにぐちゃぐちゃだったのに。」
 そういうと視線を正面のルートヴィッヒに戻し、お前のおかげだと微笑んだ。
 過大評価だと思ったが、せっかく褒めてもらっているのだに卑屈になる必要もないだろう。ルートヴィッヒは嬉しそうに賛辞を受け取ると、照れたのを隠すようにカップのお茶を一口飲んだ。
 と、その机上に日が当たってきていることに気がつく。時とともに傾いてきた太陽の日差しが主の足にもかかっている。
 「兄さん。」
 「ん?どした。」
 「日が当たっています。移動しませんか。」
 「あぁ、これぐらい大丈夫だって。硝子越しなんだからあったけぇだけだ。」
 「しかし…」
 珍しく食い下がる人狼に苦笑し、主は足を組みかえることで日差しを避けてやった。
 「お前は心配性だな。火傷するようなへまはしねぇよ。」
 ルートヴィッヒはすみませんと謝ると引き下がったが、一度目にしてしまったことで気になってしょうがないのか日の傾き具合と硝子に思いをやってしまっているようだった。
 (愛い奴…)
 ギルベルトは心配されているという状態に少々の困惑と、なんともいえないくすぐったさを感じていた。
 この可愛い人狼と暮らしだして、すでに3回の休息日を迎えている。思った以上に情が移ってしまっているのかもしれない…心配されて嬉しいと思ってしまう程度には。そんな自分の思考に気づき心中で多少動揺しながらも表面には一切出さず、ギルベルトはお茶を飲んだ。故意的に気持ちの矛先をずらし、再び爪先にかかろうとしている日光に向ける。優しいルートが気にしてやまない日の光。
 (まぁ、気にすんのもしょうがないけどな)

 本来吸血鬼は日を嫌うものが多い。日差しに含まれるある成分が彼らの皮膚を焼くからだ。伝承にあるように一瞬で灰になるなどということはないが、人間が炎で火傷をするように吸血鬼は日光で火傷をする。
 テラスの硝子は特別なもので吸血鬼にとって有害なものを取り除いてくれるが絶対ではない。しかし変わり者の主は日のあるうちにこのテラスで過ごすのが好きなのだ。お茶を飲み、本を読み、時には庭へと続く扉を開け放って外の空気を楽しむ。正直ルートヴィッヒは主の身を案じ気が気ではなかったが、唯一の楽しみだといわれてしまえばとめることもできず、少しでも快適なようにと庭園に手を加え硝子に不備はないかと気を配ることしかできなかった。


 チチチ…


 鳥の鳴き声に顔を向けると、庭に向かって開かれていた扉から小鳥が2,3匹入り込んでいた。黄色い羽毛が太陽の日差しを浴びてほわほわと膨らんでいる。可愛らしい様子に心配げに眉を寄せていたルートヴィッヒも思わず頬を緩めた。
 「何だお前らまた来たのか。」
 嬉しそうにいうギルベルトの口調からすると馴染みの鳥なのだろうか。鳥達は人外である自分たちを恐れる様子もなく近づいてきた。
 「お前ら運がいいなァ。今日のは美味いぜ。」
 ギルベルトは机上の皿から食べきれなかった菓子をつまむと、白い指先で細かいかけらにしてレンガの床にばらまいた。それはルートヴィッヒが焼いたもので、簡素なようで手のかかった焼き菓子は主にはたいそう好評であった。
 小鳥達は我先にとギルベルトの足下に寄ってくると、菓子をついばんだ。一応野生の鳥であろうにそんなにも無防備でいいのか、と言いたくなる様子だ。
 「慣れているんですね。よくここで餌をあげているのですか。」
 「ん?そうだな、気が付いたらやるようにはしてるけど…。
  ま、いい餌さ場だと思われてんじゃねぇの。」
 (ちがうーーー)
 思わず口に出しそうになった言葉をルートヴィッヒは慌てて飲み込んだ。この行為はきっと特別だ。でもそれを探求できる立場ではないし、何故と問われれば答えられない。

 脳裏に赤く爛れた手が焼き付いている。傷ついても伸ばされた手と、消えた小さな命。
 ーーでもそれを自分が知っている事を主は知らない。

 だから代わりにルートヴィッヒは優しく目を細めて、小鳥を見るといった。
 「でも、本当に慕われている…。」
 きっと自分が同じように餌をやっても同じように寄ってはこないだろう。この鳥達の様子は主だからこそだ。
 まるで自分みたいだ、とルートヴィッヒは思う。執事になったのも、吸血鬼に仕えたいと思うのも、それは相手が主ーーギルベルトだからだ。他の誰でもそうは思わなかった。きっと彼がいなかったら自分は森で生きる狼として一生を終えていただろう。
 これしかないと思ったのだ。その選択に後悔はないけれど、やはり自分では駄目だったのかもしれない……。

 「ーーっ!」

 小鳥を見ながら思いをやってしまっていたルートヴィッヒを、押し殺したギルベルトの声が引き戻す。何事かと見やると、主は慌てて左手を右手で押さえて机の下へと隠そうとしていた。
 人狼の優れた視力が、その手の異変を捉える。餌をやろうとしてか小鳥を招こうとしてかは分からないが、日光に当たってしまったのだろう、火傷を負って赤くなった手。
 「兄さんっ!?」
 ルートヴィッヒは椅子を蹴り倒すと机の反対側へと走った。何事か言おうとする主を無視して、多少乱雑にその手を取り上げる。反対の腕でワゴンを引き寄せると、そこから水差しを取り出して水をかけた。流れるような動作だ。
 お見事、と言いかけたギルベルトだったが、水差しをもつ手が震えているのに気付いて口をつぐむ。
 「これくらい大した事ねぇよ。」
 「しかし…っ!」
 人狼ならば、あるいは契約者をもつ吸血鬼なら大した事ではないかもしれない。しかしギルベルトは永くを独りで生き、消えつつある存在なのだ。ほんの少しの傷でもどう影響するか分からない。
 そう、契約者さえいれば。幼い頃に聞いたローデの言葉が思い起こされる。

 『人狼はその契約者が傷を負ったとき、その傷を己のものとする事でそれを癒す事が出来るーー。』

 空になった水差しを机におくと、両手で主の左手をそっと包む。そんなことをしても傷は癒えない。分かっている。だって俺は彼の契約者じゃない。
 
 「………俺がもらえたら…」

 無意識のうちに溢れ出た言葉だった。言った事にすら気付いてない…だけど本気の。
 それに気付き後悔するのと、主の手が引き抜かれるのは同時だった。はじかれるようにルートヴィッヒは顔を上げてギルベルトの顔を見上げる。僅かに見開いた、その紅い瞳に浮かぶのは驚愕と、哀しみと、そしてーーー怖れ?
 しかしそれはすぐに閉ざされた瞼によって覆い隠されてしまい、次の瞬間には消え失せてしまった。
 「に、いさん…?」
 確かにそうなればと望んでいる。誰よりも彼の側にいたい、そして彼の痛みを取り除けたらと。
 だけど彼は契約を拒んでいる。だからこそルートヴィッヒはこれまでの間、そんな様子はおくびにも出さずにいたのだ。短い主従関係を楽しく過ごしたかったし、主の負担にはなりたくなかった。
 最後には、そう、この月の一巡りが終わる時には言うつもりではいた。でもこんな形でじゃないーーー。
 「…お茶をありがとう、ルートヴィッヒ。」
 再び目を開けたギルベルトからは先程の動揺した様子は全く感じられなかった。呆然として側にかがみ込んでいるルートヴィッヒに目もやらず、もはや半分ほどが日の光によって覆われてしまった机を見るとも無しに眺めている。

 温室の中にただ静寂が満ちる。
 先程の騒動に驚いて出て行ってしまったのだろうか、小鳥達はもういない。
 ふと、ギルベルトが視線をあげて、庭を眺めた。
 「お前がいなくなったら、ここも前みたいに荒れちまうな。」




 そのいつも通りの横顔からは何も読み取る事は出来なかった。





†  †  †
ここから絵がつきません。手抜きですんません。

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