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2010年1月11日月曜日
航海日誌
(さて、どうしましょうか。)
羽ペンを片手に、菊は目の前に置かれた『航海日誌』をぱらぱらとめくった。
てきとーに書けばいいからよ、と船長に渡されたそれは持ち回りで書かれており、内容は航海に関することにとどまらず日常の雑多なことにまで及んでいる。もはや『航海日誌』というよりは『交換日記』といった感じだった。
文字に性格が出るとはよくいったものだ、と参考になるかと他の人が書いたものを見ながら菊は思った。各々の字にその性格が出ていて面白く、当初の目的を忘れ読みふけってしまう。
乱雑に書き殴られてはいるものの、読み難い訳ではない文字はおそらく船長であるギルベルトさんであろう。本能的ともいえる聡さで船員の機微に気付き、それについて言及している。
我の強い船員の多いこの船をまとめていくのは大変だろうに、彼はむしろそれを楽しんでさえいるようさえに思える。
はらりとページをめくる。
生真面目に整った文字は彼の弟、ルートヴィッヒさんに違いない。事務的にその日の出来事や気候などについて書いている。最も航海日誌らしい、といえる内容だ。
しかし最後に今日はどこどこを掃除した、とか兄さん達は今日も元気そうだ、と拙い文がつけられている所が微笑みを誘う。彼なりにこの船に馴染もうとしているのだろう。
視線を横にずらせば流麗な文字。これはフランシスさんだろう。料理人らしく船の食料について書いたあと、船員の健康状態を気にかける文も見られた。
その派手な振る舞いに反し細やかな部分に気が付く繊細な人だ、と菊は思う。彼が船員全員の好みを把握しており、料理の味を微妙に変えているのに気付いている人は少ないのではなかろうか。
更に次のページをめくる。
意外と几帳面(などといったら失礼かもしれないが)な文字はアントーニョさんだろうか。あまり文字を書くのが、というか机についているのが好きではないのかもしれない。端的にまとめられたそれはルートヴィッヒさんに似ているが、それに加えてなぜかロヴィーノさんのことについて書かれている。キツいことはないか、幸せだろうか、と、ロヴィーノさんのことを心から気遣っているのがその文からでも知れる。
その隣に並ぶ癖の強い文字はそのロヴィーノさんだ。一見すると愚痴や文句ばかり書かれてるように見えるが、違う。その一部は的確にこの船の問題点を指摘しているのだ。
なかなか素直になれない年若い青年を思い出して菊のほほが緩む。
(この船は暖かい。)
海軍に追われていると聞いた時はなんて船に乗ってしまったものかと後悔もしたが、今はこの船の一員になれたことが素直に嬉しい。ここはまるで大きな一つの家族だ。互いに支えあい、慈しんでいる。
かぞく、と口のなかでその単語を転がす。
陸で自分を育ててくれた両親。何も聞かず一員として迎えてくれたこの船の皆。そして…まだ会ったことのない血族。
(おっと、いけない。)
とたんあらぬ方向へと向かいだす思考をなんとか切り替え、菊は乾いてしまった羽ペンの先に再びインクを付けて航海日誌に向かいなおった。今はこれを書いてしまわなくては。
『第一の月、五の夜 晴天 異常なし
原始の大陸の拠点を出て二つ月が経ちました。
航海はギルベルトさんとルートヴィッヒさんの的確な操舵で何ら滞りなく、順調に進んでいます。
私の知識に間違いがなければ、あと一つ月ほどで第二の大陸最後の港に着くのではないかと思います。目的とする第四の大陸まではそこからあと二つ月ほどです。
先日は年のかわり日があり、この船上でもささやかなお祝いが行われました。
フランシスさんが限られた食料の中から、とてもそうとは思えないほどの豪華な食事を用意してくれました。それはとても素晴らしい夕食で、まるで陸の上で祝っているようでした。
今年が皆さんにとってよい年になりますように。』
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