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2011年3月21日月曜日

ハロウィンパロ 終幕

終幕



 扉1枚隔てたその空間には、先ほどの緊迫した雰囲気とは打って変わって静かな安らぎに満ちていた。
 早朝の静謐な空気が柔らかな日の光に切り取られ、白い輝きをはなっている。
 窓の外では気の早い鳥たちが囀り、世界にとっての朝…闇に生きるもの達にとっての夜がくるのを告げていた。

 明るさに慣れない目を細め部屋を見渡す。
 素朴な机と椅子、分類して並べられた本棚、これで足りるのかと心配になるほど小さな洋服箪笥。
 見事なまでに整い、ちりひとつないその様子に苦笑がこぼれた。
 まったく、アイツらしい。

 普段は閉められているのであろう分厚いカーテンを両側に下げた大きめの窓、その反対側に寝台はあった。
 眠る人の掛布の端から金糸がのぞく。
 惹きつけられる様にしてギルベルトは寝台に近付いた。

 (…綺麗だ)

 無防備に眠る彼を見下ろす。泣いたせいか目元が少し赤らみ、降ろされた髪が幼さを引き立てている。目覚める様子はない。

 (これのおかげか)

 ルートヴィッヒには簡単な呪がかけられていた。悪いものではない。ローデリヒによるものであろうそれは、彼を少し眠り易くするおまじないの様なものだ。これがあったから外の騒動にも、誰かが部屋に入ってきたのにも気が付かなかったのだろう。
 出来るだけそっと彼の横に腰掛ける。
 ギシリ、寝台が音を立てた。
 微かに震える手を彼の額にかざし、ごめんな、と心の中で謝ってから呪を解いた。



 懐かしい気配に意識が浮上する。まず何よりその近さに驚いた。こんなに近くに人がいて気が付かないなんてどうかしている。
 けど俺がその理由について考える事はなかった。それが誰なのかわかったからだ。

 (…そんな訳ない)

 あの人がいるはずがない。他者を…俺を拒む冷たい眼を思い出す。遠くをみる哀しい眼も。まだ執事だったのにそれすら投げ捨てて、あの人を冷たい地下において逃げてきたのは自分だ。
 だからこれはきっと夢だ。あの人がすぐ側にいて穏やかに俺の髪を撫でている…そんな優しい夢。夢ならば覚めたくないと思う。このまま、しばらくでいい。虚しくも幸せな夢の中で微睡んでいたい。
 でも俺は目を開けた。
 あの人の存在に隠れて、小さな別の気配があるのに気が付いたからだ。あそこを出る前にこの手の中にあった、そして失われてしまったはずの、黄色い…

 「…ことり。」

 俺が急に目を開けたせいか、あるいはその唐突な言葉にだろうか、驚く顔のその後ろから黄色い塊が飛び出す。それはルートヴィッヒの胸元に軽やかに落ちると、チィ、と感謝の声で鳴いた。ルートヴィッヒが思わず差し出した手にすり寄り、その漆黒の翼を膨らませて喜んでいる様に見える。
 「…よかった。」

 もう夢ではない事はわかっていた。柔らかな感覚がそれを教えてくれる。

 視線をあげて彼をみる。少し照れた様な赤い瞳とかち合い、そこに先程思い出した様な冷たい色がないのに心から安堵する。しかしそうなると残るのは疑問だ。
 「何故、ここに。」
 横になり小鳥を抱えたままそう問うと、彼はどこか緊張した面持ちで俺と向き合った。

 「ルッツ」

 寝起きのぼんやりとした頭で、ただ、その名で呼ばれるのを嬉しいと思った。


 「お前が好きだ。」


 
 (す、き…?)

 彼はそういうと目を逸らして乱雑に頭をかいた。視線を泳がせたまま、こちらには聞こえない声で何事か呟く。そして一つため息をこぼすと再び俺と向き合った。落ち着かない仕草。

 (まさか、照れている…のか?)
 突然の言葉に反応できず黙ったままの俺をみて、彼は僅かな苦笑を浮かべて続けた。
 「あんなことお前に言っておいていまさらなにを、って思われてもしかたねぇけど…これが俺の本当の気持ちだ。」
 あの時と同じ、眩いものをみるかのように彼が目を細める。
 早鐘を打ち出した胸の上から小鳥が飛び立ったのが分かったが、その行方に目をやる余裕はなかった。

 「お前が家にきて、全てが生き返ったみたいだった。
  屋敷もテラスも何もかも。あんな風に手を入れられて綺麗になってるなんて何年ぶりなのかわかんねぇ位だ。使われないものは死ぬっていうの、あれ本当なんだな。自分の家があんなに生き生きとしてくるなんて…正直驚いた。
  ーーー俺もそうだ。きっとあそこで死んでるようなもんだったんだろうな。何も傷つけたくないなんて言い訳して逃げてた。かっこワリィよな。」

 彼の手が優しく俺の頬に触れる。

 「お前達が教えてくれたんだ。生きるって事。
  逃げてる場合じゃねぇよな。こんな俺を、お前は好きだっていってくれてんのに。」
 頬に触れる手は少し冷たくて、僅かに震えていた。
 緊張しているのだ、と理解して、なんだか泣きそうになる。

 「愛してる、ルッツ。許されるならお前といきたい。
  …俺の契約者になってくれ。」

 それは生きたいなのか、逝きたいだったのか。

 あぁ、でもそんなのどちらにしても同じことだ。

 「…俺で、いいんですか。」
 ようやく出てきた言葉はみっともなくかすれていた。
 「お前がいいんだ。」
 視界がぼやける。喉が詰まってしまったかのように、上手く声が出せない。

 泣きそうだ、と思った時にはもう涙がこぼれていた。

 「側に置いてください。貴方の側にいたいんです。」
 「いてくれ。」

 即座に返された言葉もまた、かすれていて。

 「側にいてくれ、ルッツ。お前が必要なんだ。」
 彼に触れたくて手を伸ばせばそれは叶えられた。身体を起こして彼の背を抱く。強く抱き返されて幸せに胸がつまった。


 
 
 
 

 


 「なぁ、日が落ちたら、また俺のとこに来てくれるか。」

 「勿論です。私がいなかったら誰が掃除をするんですか。」
 くっくっと笑う気配。
 「お前は掃除が好きだな。」
 「あなたは掃除が嫌いですね。」
 「ん〜、そうだな。そうでもねぇけど、面倒くさいじゃねぇか。」
 「綺麗になると、気分が良いんです。」
 「ふ〜ん。掃除もいいけど…」
 抱き合っていた身体を離し、彼がこちらに向き合う。
 「分かってます。貴方が一番、でしょ?」
 「その通り。だけど惜しい。」
 「え?」
 「もう呼んでくれねぇの?なぁ、”ルッツ”」
 我が侭で自分勝手で、でもどうしようもなく愛おしい俺の主人。
 「貴方が一番だ…兄さん。」

 嬉しそうに笑った彼が再び俺を引き寄せる。与えられた口付けを受け入れて、ルートヴィッヒはそのまま安らかな心地に身を任せた。



日の当たる場所—完



†  †  †
一応完結です
おまけが少し続く予定

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