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2010年7月5日月曜日
ハロウィンパロ 第1幕
第1幕 期間限定の主従
ギルベルトは行儀悪くも頬杖をつきながら目の前の狼、ルートヴィッヒが給仕する様を眺めていた。燕尾服をきっちりと着こなし、主人の食事を用意するその 手つきによどみはない。
幼なじみで数少ない友人ともいえるローデリヒ…というよりは彼の狼であるエリザベータに押し切られるようにして預かる事になった狼は、実に有能だった。 いて損はない、との弁を証明するかのように完璧に仕事をこなし、そのでかい図体からは想像できない細やかな気配りもみせる。
(普通に従者としてなら文句は何にもねぇんだけどな)
しかし幼なじみ達の意図は明らかだ。この狼と生活を共にし、あわよくば契約を…といったら表現がいささか悪いような気がするがそんな所であろう。
契約、それは太古から吸血鬼と狼の間で為されてきた儀式。狼は吸血鬼に隷属し、彼の盾となり剣となる。吸血鬼は契約を交わした狼のみを糧とし、代価とし て長い寿命を狼に与える。
いつまでも契約を結ぼうとせず、消えるのも厭わないとばかりに隠棲するかのような生活を送っている自分を心配してくれているのも分かっている。だがギル ベルトに契約をする気は全くなかった。
どちらかが死ねばもう片方も死ぬ…いい意味で捉えればそれは一生をともにする伴侶のようなもの。しかし悪い意味で捉えればそれは永遠の呪縛だ。自分は誰 かに縛られるつもりはないし、自分の為に他人が傷つくなどぞっとする。
それにギルベルトは知っている。血の記憶がもたらす、嗜虐の時代のーーー
「ご主人様?」
完全に意識を飛ばしてしまっていたギルベルトをルートヴィッヒの声が引き戻す。ふとみると用意は終わったのか、机の脇に立った彼が心配そうに自分の顔を 覗き込んでいた。
「大丈夫だ、何でもねぇよ。」
契約を拒んでるとはいえ、狼が嫌いな訳ではないのだ。短い間だがこの男とも楽しく過ごせたらいいと思っている。
そこでふと思いついた。
「なぁ、お前も座れよ。」
「はい?」
「一緒に食おうぜ。お前の作った菓子すげぇ美味そう。」
「しかし私は」
「いいからいいから。」
頑に固辞しようとするルートヴィッヒを無理矢理座らせ、予備としてワゴンに乗せてあったカップにお茶をついでやる。いつも自分の事は自分でやっているの だ。これぐらいわけもない。しかし向こうはそうは思わなかったのか、些か混乱した様子で大きな身体を縮こまらせるようにして自分をうかがっている。
その困りきった表情に幼さを感じ、ギルベルトは彼が年若い狼であった事を思い出した。人狼は吸血鬼よりは短命とはいえ、種族によっては何百年と生きるも のもいる。だが彼は未だ齢30にも達してないとか。
まるで自分が甥っ子か年の離れた弟の世話をしているかのような錯覚を覚え、思わずこんな事を口走っていた。
「なぁなぁ、俺の事お兄ちゃんって呼んでみな。」
「は?」
よほど吃驚したのか敬語も忘れて聞き返してくるルートヴィッヒに、にっと笑い返してやる。
「ご主人様なんて他人行儀だろ。二人っきりなんだし、仲良くやろうぜ…ルッツ。」
「しかし」
「頭固ぇな、お前。俺がいいって言ってんだからいいんだよ。これからご主人様って呼んだら怒るからな。」
ぐ、と言葉に詰まった狼は、数秒の葛藤の後にうっすらとため息をついて主人の横暴を受け入れた。
「…お兄ちゃんはちょっと…」
「じゃあ何ならいいんだよ。」
「兄上、ではいかがでしょう?」
「固ぇ。」
「…兄さん。」
「それなら許す。」
企みがうまくいったギルベルトは上機嫌でやっと目の前の菓子に手をだした。うめぇ、と菓子を頬張ったまま言葉を発する彼はとても行儀がいいとは言えない が、実に美味しそうに食べる。
ルートヴィッヒはその賞賛をどこか気恥ずかしげに、そして満足そうに受け取ると自分も手袋を外し、お茶をいただく事にした。
† † †
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